光る海
ウミホタルと関係があるのかどうか分かりませんが、神秘的な現象に遭遇したことがあります。
夜釣りや、ナイトダイビングが好きな方ならご存じだと思いますが、夜の海ではキラキラと光るモノがたまにいます。
たとえば、釣り糸を手繰り寄せるとき餌に付いたナニかが光ったり、水面を揺らすテグスやウキの刺激で細い光の線が見えたり、夜の海上を疾走する船のしぶきの中で光るものが見えたりします。
そのほとんどは夜光虫やウミホタルなどの水生生物だと思われますが、光は弱く、それほど広範囲に光ることはありません。
・・・強い台風がデイゴの季節に襲来した年の夏。
その年の夏は、台風が去ってからというもの、雨が一向に降らず、ラジオでは渇水化対策や計画断水、干ばつ・・・といった話題が毎日流れ、サトウキビの立ち枯れも深刻になっていました。何十年振りかに雨乞いの儀式をどこかの集落がやる、といったニュースが取り上げられるほどの乾き切った夏でした。
乾いた陸に呼応するように、海ではベタ凪が続き、海水温もいつもの年よりずっと高かった気がします。水温があまりに高くなると魚が沖や海底深く逃げるのか、磯釣りでは魚がまったく釣れなくなっていました。
そんなこともあって、ボクらは知人のサバニを借りて、夜釣りに出掛けました。いつもはわざわざ行くことのない深場の離れ瀬。その瀬に投錨し、潮の流れに合わせてアンカーのロープを流しながら釣ることにしました。
五時間は粘ったでしょうか、時間は深夜の二時を回っていました。釣果は、雑魚が三匹という散々な結果で、ボクらは港に引き返すことにしました。
うっすらとした星明りに島影がぼんやりと浮かんでいました。遠く港のブイの赤い光がゆらゆら見えます。距離にして五キロは離れていたと思います。
ブイの赤い光を目印に、帰港の船を走らせました。深夜のベタ凪はコールタールのように黒く、それを切り裂くようにサバニの舳先が進んでいきました。ときどき、漆黒の水面に跳ねたしぶきの中の夜光虫が青く光ってはじけていました。
夜光虫の光は、ちょうど舳先の波をかき分けるしぶきの付近に多く、船が水面を切るたびに新しい光を生み出しているようでした。
ぼんやりしていた黒い島影の輪郭が、はっきり確認できるまで近づいたとき、前方の黒い海面が淡く光っているのが見えました。さらに船を進めると、青白い光は思いのほか広い範囲で光っています。
船のエンジンのスロットを絞り、減速させましたが船はすーっと光の中に滑り込むように入っていきました。驚いたことに、水面だけではなく、水中数メートル先まで光っているではありませんか。光の正体は分かりません。見えないのです。いや、光は見えるのですが、光っているモノが見えないのです。夜光虫の大群かもしれませんが、船上からは確認することはできませんでした。魚の姿はありませんでした。
一面漆黒の海のただ中、船の周り直径30メートルほどの海面だけが「光の海」になっているのです。
その後、光は周囲の闇に溶けるように徐々に薄くなり、ついにはまったく消えてなくなりました。
不思議と得体の知れない怖さより、その幻想的な美しさに驚いたことを今でもはっきりと覚えています。
あれから、一度として光る海をボクは見たことがありません。
あの「光る海」はいったい・・・・
夜釣りや、ナイトダイビングが好きな方ならご存じだと思いますが、夜の海ではキラキラと光るモノがたまにいます。
たとえば、釣り糸を手繰り寄せるとき餌に付いたナニかが光ったり、水面を揺らすテグスやウキの刺激で細い光の線が見えたり、夜の海上を疾走する船のしぶきの中で光るものが見えたりします。
そのほとんどは夜光虫やウミホタルなどの水生生物だと思われますが、光は弱く、それほど広範囲に光ることはありません。
・・・強い台風がデイゴの季節に襲来した年の夏。
その年の夏は、台風が去ってからというもの、雨が一向に降らず、ラジオでは渇水化対策や計画断水、干ばつ・・・といった話題が毎日流れ、サトウキビの立ち枯れも深刻になっていました。何十年振りかに雨乞いの儀式をどこかの集落がやる、といったニュースが取り上げられるほどの乾き切った夏でした。
乾いた陸に呼応するように、海ではベタ凪が続き、海水温もいつもの年よりずっと高かった気がします。水温があまりに高くなると魚が沖や海底深く逃げるのか、磯釣りでは魚がまったく釣れなくなっていました。
そんなこともあって、ボクらは知人のサバニを借りて、夜釣りに出掛けました。いつもはわざわざ行くことのない深場の離れ瀬。その瀬に投錨し、潮の流れに合わせてアンカーのロープを流しながら釣ることにしました。
五時間は粘ったでしょうか、時間は深夜の二時を回っていました。釣果は、雑魚が三匹という散々な結果で、ボクらは港に引き返すことにしました。
うっすらとした星明りに島影がぼんやりと浮かんでいました。遠く港のブイの赤い光がゆらゆら見えます。距離にして五キロは離れていたと思います。
ブイの赤い光を目印に、帰港の船を走らせました。深夜のベタ凪はコールタールのように黒く、それを切り裂くようにサバニの舳先が進んでいきました。ときどき、漆黒の水面に跳ねたしぶきの中の夜光虫が青く光ってはじけていました。
夜光虫の光は、ちょうど舳先の波をかき分けるしぶきの付近に多く、船が水面を切るたびに新しい光を生み出しているようでした。
ぼんやりしていた黒い島影の輪郭が、はっきり確認できるまで近づいたとき、前方の黒い海面が淡く光っているのが見えました。さらに船を進めると、青白い光は思いのほか広い範囲で光っています。
船のエンジンのスロットを絞り、減速させましたが船はすーっと光の中に滑り込むように入っていきました。驚いたことに、水面だけではなく、水中数メートル先まで光っているではありませんか。光の正体は分かりません。見えないのです。いや、光は見えるのですが、光っているモノが見えないのです。夜光虫の大群かもしれませんが、船上からは確認することはできませんでした。魚の姿はありませんでした。
一面漆黒の海のただ中、船の周り直径30メートルほどの海面だけが「光の海」になっているのです。
その後、光は周囲の闇に溶けるように徐々に薄くなり、ついにはまったく消えてなくなりました。
不思議と得体の知れない怖さより、その幻想的な美しさに驚いたことを今でもはっきりと覚えています。
あれから、一度として光る海をボクは見たことがありません。
あの「光る海」はいったい・・・・
2011年09月09日 15:13