都はるみ --- エピソード2 ---
幼馴染のSは、マグロ船の船員です。
100トン足らずの船で外洋を駆け巡り、遠くインド洋までマグロを追って航海していました。
そのSの船がフィリピン沖500海里の洋上で火災に遭いました。
暮も押し迫った12月の深夜のことでした。時化模様の海に北風が容赦なく吹きすさんでいたといいます。
火は機関室から出火し、瞬く間に燃え広がったそうです。
「もちろん懸命に消化したさ。だけど全然ダメ。オイルの塊のエンジンが燃え、機関室からどんどん広がって、あっというまに船全部真っ黒な煙の中」
深夜の外洋のど真ん中。しかも大時化で波も高く視界も悪い状況でした。
「底(船底)に穴が開いたのか、浸水して沈みだしたわけ。燃えながら沈んでいくわけさ。もお、操舵室しか残っていないから、必死で屋根によじ登ってよ」
火災と浸水は急速で、遭難信号を打つのがやっと。救命ボートや浮輪は焼け落ちてしまったようでした。
「船長と俺と操舵室の上。波はもうドンドンくるし、周り真っ暗で見えないし、ゴンゴン揺れながら沈んでいくのに。もお死んだ、と思ったね」
死を覚悟し、操舵室屋根のアンテナに懸命にしがみつき、足元は海面に浸かりそうになっていました。
漆黒の闇の中で、時化の激しく打ち寄せる波の音と風の音だけが鳴り響いていました。
と、ゴゥという風の音に乗って「都はるみ」の「あんこ椿は恋の花」の歌声がかすかに聞こえたといいます。
「死ぬとき、幻聴やら幻覚やらが聞こえることがあるっていうけど、それだと思ったよ。もうダメだ、って思っていたからね」
意に反して、都はるみの歌声は徐々に、はっきりと響いてきました。そして、その歌声の方からボワッとした明かりが波間に見え隠れしながら近づいてきました。船でした。漆黒の波間に煌々とあかりを点した船が大音響を流して助けに来てくれたのでした。偶然にも近くを航行していた高知の漁船が救難信号を聞きつけ、駆けつけてくれたそうです。
洋上の救助の際、日本の船舶はありったけの電灯を点し、大音響の演歌を流して、遭難者に勇気と安心と信頼を伝えるのだと聞きました。たとえ荒れ狂う洋上でも、不安と恐怖が渦巻く夜の海でも、極寒の北の海でも、救助を求める声があれば必ず助けに向かうとも聞きました。それが海で働くものの流儀だとも。
そして、もっとも勇気と安心を与える日本の歌が「都はるみ」なのです。
100トン足らずの船で外洋を駆け巡り、遠くインド洋までマグロを追って航海していました。
そのSの船がフィリピン沖500海里の洋上で火災に遭いました。
暮も押し迫った12月の深夜のことでした。時化模様の海に北風が容赦なく吹きすさんでいたといいます。
火は機関室から出火し、瞬く間に燃え広がったそうです。
「もちろん懸命に消化したさ。だけど全然ダメ。オイルの塊のエンジンが燃え、機関室からどんどん広がって、あっというまに船全部真っ黒な煙の中」
深夜の外洋のど真ん中。しかも大時化で波も高く視界も悪い状況でした。
「底(船底)に穴が開いたのか、浸水して沈みだしたわけ。燃えながら沈んでいくわけさ。もお、操舵室しか残っていないから、必死で屋根によじ登ってよ」
火災と浸水は急速で、遭難信号を打つのがやっと。救命ボートや浮輪は焼け落ちてしまったようでした。
「船長と俺と操舵室の上。波はもうドンドンくるし、周り真っ暗で見えないし、ゴンゴン揺れながら沈んでいくのに。もお死んだ、と思ったね」
死を覚悟し、操舵室屋根のアンテナに懸命にしがみつき、足元は海面に浸かりそうになっていました。
漆黒の闇の中で、時化の激しく打ち寄せる波の音と風の音だけが鳴り響いていました。
と、ゴゥという風の音に乗って「都はるみ」の「あんこ椿は恋の花」の歌声がかすかに聞こえたといいます。
「死ぬとき、幻聴やら幻覚やらが聞こえることがあるっていうけど、それだと思ったよ。もうダメだ、って思っていたからね」
意に反して、都はるみの歌声は徐々に、はっきりと響いてきました。そして、その歌声の方からボワッとした明かりが波間に見え隠れしながら近づいてきました。船でした。漆黒の波間に煌々とあかりを点した船が大音響を流して助けに来てくれたのでした。偶然にも近くを航行していた高知の漁船が救難信号を聞きつけ、駆けつけてくれたそうです。
洋上の救助の際、日本の船舶はありったけの電灯を点し、大音響の演歌を流して、遭難者に勇気と安心と信頼を伝えるのだと聞きました。たとえ荒れ狂う洋上でも、不安と恐怖が渦巻く夜の海でも、極寒の北の海でも、救助を求める声があれば必ず助けに向かうとも聞きました。それが海で働くものの流儀だとも。
そして、もっとも勇気と安心を与える日本の歌が「都はるみ」なのです。
2011年11月03日 21:35
この記事へのコメント
え、何で都はるみ?正直最初そう思いました。でも都はるみはタカブーさん(すいません。漢字を打ち込むのが大変なので、あだ名で呼ばせて下さい)の故郷の人達の生命の歌だったのですね。今でもタカブーさんの心の原風景の中にしっかり流れている歌なのでしょうね。
でも私の中では、タカブーさんのテーマソングはなんと言っても夏川りみの歌う、「イラヨイ月夜浜」なのです。歌詞の意味よりも、彼女の声のまわりに漂う”沖縄的幽玄さ”とでも言いましょうか、独特の薄暗い気だるさと密やかさ。気を許すと、フッと異界に連れて行かれそうな、秘めやかな禍々しさ・・・・。そんな雰囲気がタカブーさんの世界を思い起こさせるのです。
この曲は私のドツボにはまり、毎晩子守唄がわりに聴いています。(今回は、タカブーさんの次のお話を待ちかんてぃーしているのを伝えたくて、書きました。)
でも私の中では、タカブーさんのテーマソングはなんと言っても夏川りみの歌う、「イラヨイ月夜浜」なのです。歌詞の意味よりも、彼女の声のまわりに漂う”沖縄的幽玄さ”とでも言いましょうか、独特の薄暗い気だるさと密やかさ。気を許すと、フッと異界に連れて行かれそうな、秘めやかな禍々しさ・・・・。そんな雰囲気がタカブーさんの世界を思い起こさせるのです。
この曲は私のドツボにはまり、毎晩子守唄がわりに聴いています。(今回は、タカブーさんの次のお話を待ちかんてぃーしているのを伝えたくて、書きました。)
Posted by ベティーちゃん at 2011年11月21日 19:32