群青 ---- マリンブルー ----
人の感情は、時として「色彩」から影響をうけることがあるそうです。
たとえば、アメリカンフットボールなどの激しいスポーツのロッカールームは赤が基調となっていて、試合前の選手の闘志をかきたてるといいます。逆にピンクは心を落ち着かせるそうで、刑務所の壁などに塗られているそうです。
以前、ボクはある無人島に渡りました。
無人島といっても陸地から50メートルほどしか離れていなく、しかも周囲100メートル足らずの島で、島というより「離れ岩」といったほうが近い感じでした。その島は1970年代の海洋博ブームを当て込んで当時レジャー施設が造られましたが、海洋博が不発に終わり、結局一度もオープンすることなく放置された島でした。
ボクの目的は、その取り残された島の残骸を撮影することでした。
地元の漁師さんに船外機付きの小さな船で島に渡してもらい、二時間後に迎えにきてくれるようお願いし上陸しました。
真っ青な空に痛いほどの太陽が照りつける真夏でした。島の周辺は真っ白な砂地の浅瀬で、真夏の太陽を倍増して反射しているようでした。
突貫工事で造ったであろう当時の島の桟橋は半分から折れ、手前に大きく傾いていました。赤さびた鉄筋がようやくコンクリートの塊をつなぎとめているようで、長い間波の浸食をもろに受けているようでした。
崩れかけた桟橋に気をつけながら島の内部へ歩を進めました。
島全体がコンクリートの建物で覆われている感じでしたが、近づいて観ると島に元々あったらしい洞窟を利用した一階と、その上部に建てられた二階部分になっていました。
恐る恐る一階に入ってみました。
内部は洞窟の地形を巧みに利用した水槽がいくつか並んでいて、どうやらミニ水族館を造ろうとしたようでした。
外の、ホワイトアウトするほどの明るさと対比するように洞窟内は暗く、不気味でした。
水槽のガラスはすべて割れ、潮がこびりついた内部に魚や生き物は当然いません。生き物の気配はまったくせず、そのことが一層の不気味さを醸し出しているようでした。生き物の代わりに、何か得体の知れない「モノ」がすべての水槽に詰め込まれているようでした。
洞窟水族館を抜け、二階に上がりました。
二階部分は、和風レストランをモチーフにしたような感じの造りでした。
壁は崩れ落ち、床も所々抜けていました。わずかに残った赤いカーペットがどす黒く床に貼りついていました。
レストランには大きな窓が四方にあり、座敷から海を眺められるようになっていました。窓のガラスは割れはて、窓枠が外の景色を切り取っていました。
西側の窓から外を眺めたボクは、次の瞬間、記憶が飛んだような錯覚に陥りました。
景色が「青色」の洪水なのです。見たこともない強烈な「青」が広がっているのです。
青に飲み込まれ、溺れてしまう感覚なのです。
そして、視覚が、その青に絡みとられたように身動きができないのです。
自分の思考や存在が「青」の中に吸収され、溶け込んでしまうほどなのです。
息の詰まる、畏ろしい「青」なのです。逃げなきゃいけないのに、逃れられない「青」なのです。
一面の青に張り付けられてしまって身動きがとれないのです。
色に、足がすくんでしまって動けないのです。
どれほどの時間が経ったのでしょうか・・・
背後で呼び掛ける声にボクはようやく我に返りました。後ろには送ってもらった漁師の方が立っていました。
二時間後、という約束だったが、気になって一時間で迎えにきた、と心配そうな顔で言っています。
気が付けば、ボクは一時間も「青」に魅入られて動けない状態だったのです。
帰路の船の中、漁師の方が独りごとのように言うのでした。
「・・・実は、一日だけこの島、オープンしたんですよ。部落(シマ)の人招待してね。みんなで船で渡って。・・・ご馳走食べていたら・・・なんでか、いる子供がみんな、魂(マブイ)落としたようにトゥルバッテよ。外見て、『海怖いって』、『青色が来るって』・・・なんでかねぇ・・・こんな暑い日だったさぁ、自分には分からないけど・・・」
たとえば、アメリカンフットボールなどの激しいスポーツのロッカールームは赤が基調となっていて、試合前の選手の闘志をかきたてるといいます。逆にピンクは心を落ち着かせるそうで、刑務所の壁などに塗られているそうです。
以前、ボクはある無人島に渡りました。
無人島といっても陸地から50メートルほどしか離れていなく、しかも周囲100メートル足らずの島で、島というより「離れ岩」といったほうが近い感じでした。その島は1970年代の海洋博ブームを当て込んで当時レジャー施設が造られましたが、海洋博が不発に終わり、結局一度もオープンすることなく放置された島でした。
ボクの目的は、その取り残された島の残骸を撮影することでした。
地元の漁師さんに船外機付きの小さな船で島に渡してもらい、二時間後に迎えにきてくれるようお願いし上陸しました。
真っ青な空に痛いほどの太陽が照りつける真夏でした。島の周辺は真っ白な砂地の浅瀬で、真夏の太陽を倍増して反射しているようでした。
突貫工事で造ったであろう当時の島の桟橋は半分から折れ、手前に大きく傾いていました。赤さびた鉄筋がようやくコンクリートの塊をつなぎとめているようで、長い間波の浸食をもろに受けているようでした。
崩れかけた桟橋に気をつけながら島の内部へ歩を進めました。
島全体がコンクリートの建物で覆われている感じでしたが、近づいて観ると島に元々あったらしい洞窟を利用した一階と、その上部に建てられた二階部分になっていました。
恐る恐る一階に入ってみました。
内部は洞窟の地形を巧みに利用した水槽がいくつか並んでいて、どうやらミニ水族館を造ろうとしたようでした。
外の、ホワイトアウトするほどの明るさと対比するように洞窟内は暗く、不気味でした。
水槽のガラスはすべて割れ、潮がこびりついた内部に魚や生き物は当然いません。生き物の気配はまったくせず、そのことが一層の不気味さを醸し出しているようでした。生き物の代わりに、何か得体の知れない「モノ」がすべての水槽に詰め込まれているようでした。
洞窟水族館を抜け、二階に上がりました。
二階部分は、和風レストランをモチーフにしたような感じの造りでした。
壁は崩れ落ち、床も所々抜けていました。わずかに残った赤いカーペットがどす黒く床に貼りついていました。
レストランには大きな窓が四方にあり、座敷から海を眺められるようになっていました。窓のガラスは割れはて、窓枠が外の景色を切り取っていました。
西側の窓から外を眺めたボクは、次の瞬間、記憶が飛んだような錯覚に陥りました。
景色が「青色」の洪水なのです。見たこともない強烈な「青」が広がっているのです。
青に飲み込まれ、溺れてしまう感覚なのです。
そして、視覚が、その青に絡みとられたように身動きができないのです。
自分の思考や存在が「青」の中に吸収され、溶け込んでしまうほどなのです。
息の詰まる、畏ろしい「青」なのです。逃げなきゃいけないのに、逃れられない「青」なのです。
一面の青に張り付けられてしまって身動きがとれないのです。
色に、足がすくんでしまって動けないのです。
どれほどの時間が経ったのでしょうか・・・
背後で呼び掛ける声にボクはようやく我に返りました。後ろには送ってもらった漁師の方が立っていました。
二時間後、という約束だったが、気になって一時間で迎えにきた、と心配そうな顔で言っています。
気が付けば、ボクは一時間も「青」に魅入られて動けない状態だったのです。
帰路の船の中、漁師の方が独りごとのように言うのでした。
「・・・実は、一日だけこの島、オープンしたんですよ。部落(シマ)の人招待してね。みんなで船で渡って。・・・ご馳走食べていたら・・・なんでか、いる子供がみんな、魂(マブイ)落としたようにトゥルバッテよ。外見て、『海怖いって』、『青色が来るって』・・・なんでかねぇ・・・こんな暑い日だったさぁ、自分には分からないけど・・・」
2013年06月19日 18:13