掴む手
今時分、ウォーキングがてら防波堤から海を見ると潮目をよく目にする。
潮目は海水温や塩分濃度、海流などの影響で海面の色が若干周囲と異なる現象のこと。
夏の海で、海面に細い川のような筋で現れたりする、あれだ。
・・・中学校の時。ちょうど慰霊の日の前の週末、近くの海岸に泳ぎに行った。
その日も、今日のようなうだるような暑い日で、海面には幾筋かの潮目がくっきりと現れていた。
「潮の変わり目のところは、水温が急に冷たくなっていたり、流れが早いから近づくな」と、漁師の父親に以前からちょくちょく注意はされていたが、海水浴に夢中になっていて、いつの間にか潮目の真ん中で泳いでいた。
潮目では、水面近くは温かいのに腰から下の水温は冷たかった。はっきり分かるほどの水温差があった。
好奇心旺盛の中学生のこと、その足の冷たさが不思議で心地よく、僕は意識して潮目の川に沿って泳いでいた。潮の流れはなかったと思う。
浮いたり、潜ったりしながら泳ぎ、遊んでいるうち、あることに気づいた。
潮目の決まった位置で立ち泳ぎすると、だれかの手で足を掴まれている気がした。五本の指の手でなぞられ、掴まれたような感覚があったのだ。正確に言うと、冷たい透明なスライムのような大きな手でゆっくりとなぞられ、徐々に掴まれ、また緩めた手で再びなぞられる、という感じがしたのだ。
もちろん、水面から覗き込んでも、潜って確かめても誰もいない。
人が隠れることができるような岩場も周囲にはなかった。
ちょっと恐かったが、大きな透明な手でゆっくりとなでられ、掴まれる感覚は面白く、僕はその場所で立ち泳ぎを繰り返した。
しばらくして・・・・いきなり、大きな手の握る力が強くなったかと思ったら、すごい力で僕は海中に引きずり込まれていた。たしかに、ぐいっと引っ張られたのだ。必死に抗った。なんとかサンゴ礁の岩場にしがみつき、海面に顔を出して助かった。
その後、僕は素潜りやスキューバダイビングで幾度となく潮目や海流の中でも泳いだが「水に掴まれる」という感覚や経験は一度としてない。
あの大きな透明な手は、なんだったんだろう・・・・
潮目は海水温や塩分濃度、海流などの影響で海面の色が若干周囲と異なる現象のこと。
夏の海で、海面に細い川のような筋で現れたりする、あれだ。
・・・中学校の時。ちょうど慰霊の日の前の週末、近くの海岸に泳ぎに行った。
その日も、今日のようなうだるような暑い日で、海面には幾筋かの潮目がくっきりと現れていた。
「潮の変わり目のところは、水温が急に冷たくなっていたり、流れが早いから近づくな」と、漁師の父親に以前からちょくちょく注意はされていたが、海水浴に夢中になっていて、いつの間にか潮目の真ん中で泳いでいた。
潮目では、水面近くは温かいのに腰から下の水温は冷たかった。はっきり分かるほどの水温差があった。
好奇心旺盛の中学生のこと、その足の冷たさが不思議で心地よく、僕は意識して潮目の川に沿って泳いでいた。潮の流れはなかったと思う。
浮いたり、潜ったりしながら泳ぎ、遊んでいるうち、あることに気づいた。
潮目の決まった位置で立ち泳ぎすると、だれかの手で足を掴まれている気がした。五本の指の手でなぞられ、掴まれたような感覚があったのだ。正確に言うと、冷たい透明なスライムのような大きな手でゆっくりとなぞられ、徐々に掴まれ、また緩めた手で再びなぞられる、という感じがしたのだ。
もちろん、水面から覗き込んでも、潜って確かめても誰もいない。
人が隠れることができるような岩場も周囲にはなかった。
ちょっと恐かったが、大きな透明な手でゆっくりとなでられ、掴まれる感覚は面白く、僕はその場所で立ち泳ぎを繰り返した。
しばらくして・・・・いきなり、大きな手の握る力が強くなったかと思ったら、すごい力で僕は海中に引きずり込まれていた。たしかに、ぐいっと引っ張られたのだ。必死に抗った。なんとかサンゴ礁の岩場にしがみつき、海面に顔を出して助かった。
その後、僕は素潜りやスキューバダイビングで幾度となく潮目や海流の中でも泳いだが「水に掴まれる」という感覚や経験は一度としてない。
あの大きな透明な手は、なんだったんだろう・・・・
2011年06月20日 10:48