知人の訃報が届いたのは、底冷えのする師走の深夜のことでした。
時計は深夜一時を回り、就寝前に開いたメールでした。
>> ご無沙汰しています。緊急連絡です。
突然で驚くかもしれませんが、Sさんが亡くなりました。
今朝配達の途中で倒れ、そのままだったそうです。
明日の夕方、告別式があるそうですので、ぜひご参列ください。<<<
メールは、以前の職場の同僚だったUからでした。
亡くなったSさんも元同僚の一人で、仕事の傍ら少年サッカーのコーチを長い間やっていて、
真っ黒に日焼けしたがっしりした体格の方でした。「コーチは体力勝負だから」と職場の行き帰りをジョギングで通うほどのスポーツ好きで、健康には人一倍気をつかうようなストイックな人でした。
いつものように早朝の配達業務の途中、くも膜下出血で倒れ、救急病院に運ばれたようですが、
一度も意識を取り戻すことなくそのまま息をひきとったそうです。まだ四十台半ばの突然の死でした。
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翌日の告別式を終え、式場から帰宅したボクはしばらく喪服のまま椅子に腰かけボンヤリしていました。
どのくらい時間が経ったのでしょうか、早い冬の宵闇が窓辺に忍び寄り、気づいたら室内は薄暗くなっていました。
部屋の蛍光灯を点け、喪服を脱ぎながらパソコンのスイッチを入れました。
そういえば、ボクが参加しているSNSグループのメンバーにSさんもいたことを思い出したのでした。
SNSにログインするのは、大分久しぶりでした。ボクが最後に書き込んだのは夏の終わりだったようです。
ずいぶんと溜まった投稿ログをスクロールしながら辿りました。
Sさんはこまめに投稿していたようで、少年サッカーの話題やら家族でキャンプ行った写真やらをたくさん載せていました。
ゆっくりスクロールしながら、他の投稿を確認していると、彼が亡くなる一週間前の投稿が目に留まりました。
「緊急なお知らせ!」とタイトルが打ってありました。
>>みなさんに緊急なお知らせです。
どうやら、自分のメールアドレスが乗っ取られたようです。
自分のメルアドからのメールは削除するか無視してください。
あちこちで身に覚えのない自分からのメールが送られていると友人から電話がありました。
ですので、しばらくはこのSNSからも消えます<<<
「そうだったんだ。いろいろ大変だったんだな」
ボクは独りごとをつぶやきながら、画面上を移動する投稿を何気なく読みながら、さらにスクロールを続けました。
と、ある一文でボクのマウスのスクロールボタンの指は止まりました。
Sさんのハンドルネームがもう一個あったのです。投稿日時は亡くなった当日の明け方でした。
>>なんか、もうみんなイヤになっちゃったな。なんでかな。も、どこか遠くへ行きたい。<<<
という短い文でした。
この投稿がSさん本人なのか、乗っ取ったヤツなのかは分かりません。
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SNSからアクセスできるSさんのフェイスブックには、彼が亡くなった日も含め、現在もたまにアップされます。
どうやら、「乗っ取った誰か」はSさんが亡くなったことをまだ知らないようで、成り済まして投稿しています。
ただ、「乗っ取った誰か」の投稿はSさんと錯覚するほど内容も文章も似ています。
葬式の日の投稿は
>>
今日は、子供たちがたくさん来てくれてうれしかった。また次の試合も頑張ろうな<<<
でした。